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叡王戦第5局「▲9七桂は相手の読みを外してミスを誘った手」があり得ない理由

2022年4月25日

2021年度の第6期叡王戦五番勝負第5局。藤井聡太二冠が勝って最年少三冠王を決めた一番の終盤・103手目の▲9七桂。

[Youtube] ▲9七桂デタラメ見解を斬る! AI超えに非ずほか

この▲9七桂に関してはリクエストがあったので、「▲9七桂に△5六歩だったらどうなるか?」のYoutube動画をアップし、その中で、「▲9七桂は、(▲5五角と比べてどうという話ではなく)あとの手が分かりやすく間違えにくい実戦的な好手」という趣旨の私(ブヒブヒ星人)の見解を示した。

水匠4 +983(藤井優勢)
白ビール +441(藤井有利)

それに対し「いや、▲9七桂は、1分将棋の中、意図的に相手・豊島叡王の読みを外すことでミスを誘った手だ(それによって勝負手を指させなくした手だ)」といった趣旨のコメントが複数寄せられた。

だが、この見解(?)はあり得ないと断言できる。

※「結果として」豊島叡王が1分では納得のいく対応ができないことはありえても、藤井二冠がそれを狙って▲9七桂を着手することは状況的に考えられない。

優勢な側が考えるべきこと

将棋の基本的な考え方として、「劣勢な側は、相手が間違えない限り、将棋の神様でも勝てない」というのがある。

※これは不変の原理であって、「優勢・劣勢とはそういうもの」なのだから議論の余地はない。

つまり、ひとたび形勢に差がついた将棋では、優勢な側は「いかに間違えないか?が勝つために必要なことであり、劣勢な側は、「相手に間違えてもらう」ことが逆転勝ちするための必要条件になる。

なので、叡王戦第5局の終盤、相手のミスを誘うべき立場にあるのは、劣勢の豊島叡王の側であって、藤井二冠は相手のミスを期待する立場にはなく、自分がミスしないことに留意すべき状況にある。

間違えないためには…

優勢な側が「間違えない」ためにすべきことは、紛れの少ない局面(分かりやすい局面)にもっていくこと。紛れが少ない局面とは、「単純な手の連続で勝てる」とか「複雑な変化がない」といった局面のことで、これを「分かりやすい」と表現したりする。

勝負手を指させなくするには?

劣勢な側に有力な勝負手(優勢な側が対応を間違えそうな手)を指させないためには、優勢な側は、上記、「分かりやすい」局面にもっていくことであって、相手(劣勢の側)のミスを誘うことでも相手の読みにない手を指すことでもない

※相手が読んでないであろう手を指したところで、自分もその手を読んでいなかったら、勝負手を指される以前に、即、逆転される可能性すらある。

「相手の読みを外す」とは?

俗に「相手の読みを外す」とか「相手の読みにない手を指す」と言うことがあるが、これを意図的に行う場合というのは、「このまま普通に指し進めると、自分が悪くなる(負ける)」と考えられる場合(で他に適当な手が見当たらない場合)、半ばダメ元で普通でない手を指すことをいう。

※自分が悪くなる変化は、当然、相手も読んでいるという前提。

※相手の読みを外したつもりでも、その手は相手も読んでいる可能性はあるし、相手が読んでなさそうな手ほど「自爆」の可能性は高まるので、かえって相手を喜ばせる結果にもなりうる。

まとめ

叡王戦第5局の終盤・102手目の局面は、先手・藤井二冠は自身の優勢を自覚していたはずで、考えるべきは「どうやって勝ちにたどり着くか?」だったはず。

水匠4 +1696(藤井勝勢)
白ビール +1131(藤井優勢)

考えていたことは、「勝ちにたどり着くための自分自身の手」であって、その手が相手の読み筋かどうかなど問題にならない場面

①「この順で勝ち(ないし優勢キープ)」⇒その手を指すだけのこと

②「この順では逆転される」⇒他の順を探る⇒①

※①に対し、相手(豊島叡王)が「このままでは自分は負けるので、変化しなければ」と考えて繰り出すのが「読みを外す手」。

仮に、藤井二冠が当初▲5五角と指すつもりが、予定を変更して▲9七桂を指したとするなら、「▲5五角より▲9七桂のほうが簡単に勝ちにたどり着ける」という判断があったからで、殊更に「相手の読みを外す意図」などあろうはずもない。

また、豊島叡王にとって▲9七桂が予期しない手で納得のいく手を返せなかったとしても、それは、▲9七桂の効果の一つであって、そこに向けて▲9七桂が着手された理由には全くならない。

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